Q. 日本語教師の道に進むか、一般企業に就職するかで迷っています。就職活動の時期になり、大学で日本語教育を専攻したこともあり、日本語教師として働くことに魅力も感じつつも、職種的にやりがいがあるけど生活面は厳しいとよく耳にしますし、親には一般の会社に就職しろ、と言われます。まだ内定などは何ももらっていないのですが、業界全般をふまえ、取るべき進路について何かアドバイスいただけたらありがたいです。


A. まずは普通の一般企業に就職されることをお勧めいたします。

 新卒者は厳しい日本語教師の中途採用市場

その理由の1つとしましては、日本語教師の業界というのは、完全に中途採用市場です。若い新卒者を雇って企業が育てていくといった新卒採用市場ではありません。
日本語教師の就職先となる日本語学校は、どの学校も経営や人員に余裕がなく、即戦力で少数精鋭でオールラウンド(万能)に働ける経験豊富な人材をどこも求めています。

日本語教師への回り道また、学校によっては、採用条件のところにはっきりと「日本国内で○年以上の社会経験がある方」と明記している日本語教師の求人情報も少なくありません。

これはなぜかというと、日本語教師というのは、日本語の文法だけを教えればよいという仕事ではなく、日本の社会そのものを教える仕事であり、教師が日本社会を経験していなければ、うまく教えられないためです。

人間、何だかんだ言って、自分が経験したことぐらいしか教えられません。自分が知らない日本の企業風土や社会のつながりを、日本語を学ぶ外国人の生徒は知りたがっているのに、名刺の渡し方1つとっても、教師がその日本社会を十分に経験していなければ、教える言葉に説得力がなく、教師としてアウトプットするものもすぐに枯渇してしまいます。

せっかく日本語教師デビューを果たしても1,2年で辞めてしまう人が多いのは、その辺りにも一因があります。

 背に腹は代えられぬ経済的事情

また、こちらの日本語教師の給料にもあるように、かけ出し日本語教師は数年、年収50万円~100万円以下程度でやっていかないといけない可能性が高く、新卒の方で十分な蓄えがない人は、せっかく日本語教師の道に進んでも1,2年で出もどり、また親御様に経済的支援を頼まざるをえなくなってしまいます。

例え、専任(常勤)の日本語教師になったとしても、年収200万~300万円程度になればいいほうです。長年、日本語教師を続けたとしても、それほど給料は上ることはありません。

新卒の一般企業就職の権利(優位性)も、その2年の間のロスにて失ってしまうので、一般企業就職さえも難しくなってしまいますので、経済的、条件的側面からも、日本語教師よりも先に一般企業就職を果たした方がよいでしょう。日本語教師のほうは後からいくらでもなれるチャンスがあります。

たまにネット上で、

念願叶って日本語教師デビューを果たしましたが・・・日本の大学で教えているやり方を参考にしたり、質の高い文法解説を抜粋して教えているのに、生徒が付いてきてくれない、理解してくれない、教え方が悪いとまで生徒に言われ、教え方がわからなくなった/自信が持てなくなった。

といった質問や愚痴がネット上でも散見されるのは、理論を学んだだけで、教師自らの実体験をふまえた説得力ある教え方ができていないからです。
文法など左脳ばかりに働きかけてもなかなか外国人には理解しがたく、外国人が日本で今、そしてこれから経験する実体験に則して右脳に働きかけるように現実的な実例を豊富に織り交ぜて教えていかないといけません。
テキストなどには載っていないあなたならではのオリジナリティあふれる経験談に基づいて惹きつけるテクニックが求められます。そのためには教師に様々な職種や海外経験などの、圧倒的な人生経験が必要です。

ですので、まずは日本語教師を目指すのであれば、一般企業に就職して、社会経験を積むことです。社会経験も日本語教師に必須な勉強項目の1つなのです。一般企業の道に進んだからといって、それは「日本語教師をあきらめたこと」にはなりません。そもそも日本語教師か会社か、の二択ではないのです。すべてがいずれつながっていきます。

日本語を学ぶ外国人・留学生らのほとんどは、その学ぶ志望動機として、「日本語ができるようになって、将来、日系企業で働きたい」とか「自国にもどって日本からの観光客を相手にした商売や日本との貿易などのビジネスに従事して、日本と自国の架け橋になりたい」といった希望を持っている人がほとんどです。

そういった日本語学習者は、日本語を学べば、実際どのような夢と現実が待ち受けているのか、といった より具体的なイメージを知りたがっています。ですので、日本語教師は自ら身をもってその社会を経験し、ナマの体験談として生徒に語り継ぐ必要があります。例えばコンビニ1つとっても、日本ならではの効率的かつ質の高いサービス提供のノウハウや、企業経営、利益を上げていくことの難しさ、チェーン展開している日本の企業風土など内部的な実体験など、海外の学生が知りたがっている情報はたくさん得られます。

幸い、日本語教師は中途採用市場ですので、いろいろ社会経験を積んでから、30歳代頃から目指しても遅くはない職業です。むしろほとんどの日本語教師が、20歳代後半とか、30歳代に入ってから日本語教師を始めた人が多い業界です。

 20台のうちに海外経験をたくさん積む

そしてできれば社会経験だけでなく、20歳代のうちに、海外経験もたくさん積んでください。これも日本語教師として働きだした時に、生徒たちのバックボーンを知る上で非常に役に立つ経験です。良い日本語教師というのは生徒たちの生活背景なども体感として熟知しており、そのために生徒の立場に立てた分かりやすい日本語の授業を展開するものです。

日本語教師になる道モデルケース

海外出張、海外駐在などができる企業へ就職するのが理想的ですが、それ以外の会社などで働く場合も、20台のうちに2,3年日本で働いてお金(最低150万円程)をためては1年間、海外に留学やワーキングホリデーなどで海外を経験し、また2,3年働いては1年海外を繰り返し・・・も理想的です。海外短期旅行は海外経験には含めません。少なくとも1年はその国に滞在し、欧米圏、アジア圏など複数を経験しておくとよいでしょう。
現在では終身雇用、年功序列も崩れ、新卒から1つの組織に固執するほうがリスクが高い人生です。それよりもオフロードでもたくましく生きていくための多様な価値観を海外で得ることのほうが、流動化激しい今の世の中に対応できるようになります。

海外経験を積み、生徒の育った背景などを知っていれば、例えばどうしてこんなに忍耐力がないのか、こんな言い回しをすれば相手に理解されやすい、といったことも自然とわかるようになります。

 新卒だと海外で就労ビザが取れない可能性あり

それ以外にも実務的な問題として、新卒者だと海外で就労ビザが取得できない場合もあります。実際、中国の日本語教師募集の例でも以下のように応募条件に明記しているところもあります。

  • 2年以上、日本での就業経験のある方(就労ビザ取得の関係上)

つまり、いくら日本語教師の資格を持っていたとしても、社会経験(正社員としての就業経験)が一定以上ないと、海外では日本語教師として働けないケースもある、ということです。

就労ビザ取得条件は国によっても様々ですが、その国の発展に伴い、全体的にはどこも似たような条件になってきますので、今後は日本での社会経験がない人は海外ではますます働きにくくなってくる(ビザが取れない)可能性があります。
この意味でも、日本語教師になる前に、しっかり日本でフルタイムの社会経験を(少なくとも2,3年以上は)積んでおくことをお勧めいたします。

 進むか進まぬかの判断基準

日本語教師になろうかどうか迷っている・・・

と周囲の人や、ネットの質問箱系に質問し、誰かの後押しを期待している人は、現段階では日本語教師にはならないほうがいいでしょう。日本語教師というのは「気が付いたら日本語教師になっていた」「誰が何と言おうと私は日本語教師になる!」「これが天職だと100%確信している」といったある種、強迫観念めいた勢いがある人でないとやっていけない、厳しく大変な環境です。

進路のシグナル「日本語教師には元気な人が多い」とよく言われるのはこのため、です。みなさん様々な人生経験を経た後で達観に至った人が「元気な日本語教師」として存在しているからです。そこに迷いが生じる余地はありません。
この職に迷いや不安が少しでもある人はすぐにふるい落とされ(だから日本語教師の離職率は高い)、消えていきます。

迷っているということは、ならなくてもよい、ということを暗に示唆しています。逃げ道がある人は、厳しい環境ではやっていけません。他人に「なるべきかどうか」質問してしまった人というのは、結局、他力本願、他人に責任を転嫁している(または後々何かあると他人に責任を転嫁する)ということですので、例え日本語教師になったところで延々とグチめいた時間を過ごすことになり、やがてすぐに辞めることになるのは目に見えています。日本語教師のようなフリーランス的に自己責任で働いていかなければならない職種には、(少なくとも現時点では)進まないほうがよいでしょう。自分の中に確信めいた感覚が生じるまでは。

 もう少し広い目線で日本語教師という形態を捉えてみる

よく見落とされている点ですが、日本語学校に雇われるだけが日本語教師ではありません。「必要は成功の母」とはよく言われますが、日本語教師というのは自分が身を置いている環境に求められて、自然発生的になっていくのが理想的です。

例えば各国大使館や国境なき医師団のような海外活動に従事する傍ら、現地の人々に日本語を教えるようになった・・・日本の大手文房具メーカーや電気メーカー、商社勤務者で、アフリカでの市場獲得を目指して現地の人々にボールペンや電池などを配布して案内してまわり、現地でニーズを開拓し、支社を作って、そこで雇用が生まれ、現地の人々に日本語を教えるようになった・・・など、企業内日本語教師(自主日本語研修講師)といった展開で日本語教師になっていく人もたくさんいます。

こちらの家庭内日本語教師で第一歩を踏み出す主婦の方の例もそうですし、通信教育の日本語教師養成講座の手配をしていると、世界各地で働きながら、日本語教師になっていかれる方にたくさん出会います。無理に願望が先んじて日本語教師になるのではなく、周囲のニーズに順応して、日本語教師になっていく・・・それが一つの進路決定の自然形でもあります。

人間、「社会的存在が意識を規定」します。まずは自分をいろいろな職業下、環境下に置くことで様々な価値観・考え方・知識を自分の中に育むことができ、そのアウトプットできるものの量が多いほど、成功する日本語教師になれる可能性が高くなるものです。

日本語教師と関係ない、一見、無駄だと思っていた経験も、やがてリンクし、すべてがやがて1つにつながっていきますので、日本語教師への道に迷いが少しでもある方は、まずは「急がば回れ」で、日本語教師以外の道を進むことも無駄ではありません。