模擬授業

Q.日本語教師の就職の際に、通常の面接と模擬授業(技術面接)とかが一般的にはあると思うんですが、どんなことが求められるのでしょうか?

A. 学校によっても様々ですが、以下に、これまで実際に日本語教員の就職・採用面接時に課せられたことがある模擬授業(教案)ネタや特徴をまとめてみましたので、ご参考にしていただければ幸いです。

 面接時の模擬授業の特徴

  • 与えられる時間は10分~20分以内(にできるところまで)の場合が多い
  • 生徒役は採用先に勤めている日本語教員や学校職員など(日本人)である場合が多い
  • 模擬授業の課題は事前に知らされることが多い(事前に教案提出を求められる場合もある)
  • 初級の学習者を想定し、テキスト「みんなの日本語 I」(初級)の中から課題が出されることが多い
  • 完璧にできることより「どのくらい頑張ったか」や「失敗時の自己修復力」などを評価している
  • 独自教材(フラッシュカードや絵カードなど)自分で用意するべきものは、自分で用意すること
  • 遠距離や海外などの場合は、SkypeなどのTV通話機能を使っておこなうこともある
  • 模擬授業後の質疑応答時のダメ出しへの反応も面接官は観ている(ダメ出し=不採用とは限らない)

 面接官がみているポイント

勤務先(面接官)によってもチェックポイントは様々ですが、概ね以下のような点を観ていることが多いです。

  1. 日本語教育の(基礎的な)知識があるか
  2. 授業の遂行能力・適性(声の大きさ、板書の書き方、話の仕方)・・・要は生徒に分かりやすいか
  3. 柔軟性・・・臨機応変に対応できるか(ダメ出しや予想外のことへのアドリブ対応力、人間性)

 1.知識

1については、日本語教育全般について、知識があればあるほど良いですが、とりあえず基礎的な知識の有無をみていることが多いので、妙に深い所をアピールする必要はありません。また、模擬授業に指定されたテーマだけでなく、その前後の課も調べておいて答えられるようにしておいたほうがよいでしょう。

 2.能力・適性

2については、一言で言えば、「生徒にとってわかりやすいか」を観ています。教壇での声が小さすぎないか・聞きやすさ、板書が見やすいか(必ずしも達筆である必要はありません)、話し方がどもっていないか、聴きやすいか、手元の教案ばかり見て生徒の方をまったく観ていない(生徒の反応を見過ごしていない)か・・・などです。

 3.柔軟性

3については、生徒からの質問に的確に応えられるか、もしくは(あえて意地悪な質問をして)答えられない場合のリアクション(アドリブ)などを観ています。もしわからない場合、素直に「わかりません」「できません」といったほうが、むしろ正直さをアピールできて良い場合もあります。明るい人や、楽しそうに授業をしている人は、評価が高くなります。

模擬授業の課題はできるに越したことはありませんが、むしろ模擬授業は「形だけ」、その成否そのものよりも、その人の教壇でのイメージ、ダメ出しされた場合のリアクション(謙虚さ・人間性・成長性)などの周辺要素をチェックしている場合も多いです。よって、「模擬授業を失敗してしまった!もうダメだ!」と思っても、後日、採用決定通知が届くことは多々あります。

その他の注意点としては、例えば、テキスト「みんなの日本語」の24課が模擬授業のお題として指定された場合は、その課の前まで、つまり1課~23課の内容も復習(把握)し、その内容を24課の模擬授業で反映させる準備をしておいたほうがよいです。

完璧である必要はありません。とにかく一生懸命にやることが重要ですが、その一生懸命さも、生徒不在の「自分オンリー」ではなく、あくまで「生徒ファースト」で、生徒のために分かりやすく一生懸命やっているか、という姿勢がとても大切で、生徒(面接官)との対話を楽しみながらやることが1つのコツのようです。

 出題されることが多い模擬授業の課題(ネタ;過去問)

以下は、これまで日本の日本語学校などで採用試験時の模擬授業で実際に出された課題です。就職時の準備等に参考にしていただければ幸いです。実践にブランクがある方や不安な方などは、そうした方を対象とした短期の日本語教師養成講座などを活用するのもよいかもしれません。また、下記のお題のキーワードで検索すれば、ネット上に動画などもありますので、参考にされるとよいでしょう。

 テ形の導入

「みんなの日本語 I」14課。就活の模擬授業で一番、要求されることが多いネタが「テ形の導入」(て形/ Te-form)です。具体的には、「~てください(指示)」「~てください(依頼)」「~ましょうか」「~ています」など。動詞活用は3つに分類され、その見分け方を説明する、その他、動詞活用は3つに分類され、その見分け方を説明。「辞書型(行く、食べる、話すetc)→て型の変化」や「ます型→て型の変化」の説明など。テキスト「みんなの日本語」で初めて「動詞の変換」が出てくる箇所のため、基礎中の基礎な教授力をはかるのに最適で、採用面接時の模擬授業で課せられることが多いです。あまりに有名(典型的)すぎるため、ネット上にもたくさん導入サンプルが存在していますので、それらを参考に準備しておくとよいでしょう。

例)「~て形の導入及び、練習」などであれば、
て形の導入→動詞はどのグループから入れているか?例外をちゃんと抑えているか?
練習→指示がわかりやすいか?・・・などなどを見ると思います。
https://qanda.rakuten.ne.jp/qa3325821.html

 あげもらい表現

「みんなの日本語 I」7課の「あげもらい」表現。文型:「あげます」「もらいます」・・・ペア練習で「だれにもらいましたか?」「何をもらいましたか?」などの質問。「あげる、もらう、くれる」の違いについても模擬授業頻出課題の1つです。

アゲモライは主語が「教科書では私に限定されている」が、標問では「三人称は三人称にあげもらいます(松本さんはマイクさんにネクタイをもらいました)」と出ている。
授業では私に限定して導入・練習するが、標問やテストのために三人称の主語を最後の方に(さらっと)紹介しとく。教えるクラスのレベルでどれだけ教えるかの割合を変える
http://jn2et.com/Kyouan/L7.html

 ~たい / ほしいです

【出題例1】:「みんなの日本語I」13課。「~たい」の導入。日本国内の日本語学校にて出題。生徒役の現職の先生2人を生徒と見立てみたて、機械的なドリル練習のあと、応用練習の内容説明まで10分程度で。その他、「日本語学校を辞めようか悩む内容の生徒からの英語の手紙に対する対応」試験など出題。

【出題例2】:同13課。東京の日本語学校。13課 A-2の「~たいです」を、「ほしい」との違いにも触れながらの導入の模擬授業をお願いします。

 た形~ことがある(経験)

「みんなの日本語 I」19課、「タ形+たことがあります/ありません」(経験)。

  • 珍しい経験を言うものなので、未習語が多くなる。19課以前に出た言葉を入れておくのが望ましい
  • 近い過去には使わない(昨日はじめて寿司を ×食べたことがあります 〇食べました)
  • 大げさなものばかりでなく、日常的かつ多少縁遠いものも使えることを導入で伝える
    http://jn1et.com/kyouan19/#VN

 ~と思います/と言いました/でしょう?

「みんなの日本語 I」21課の「[普通形]~と思います。(推量、意見)」 「~と言いました(直接引用、間接引用)」 「~でしょう?(確認、同意の要求)」の3つ文型。

語彙導入に時間をかけると文法導入や練習、活動を見てもらう時間がなくなるので(模擬授業なので導入や活動の授業を見てもらわないと意味がないですからね・・・) 新出語彙はプリントでさっと済ませ、いざ文法導入へ。。。「~と思います」の一つの使い方として、自分が想像した事、推測した事を述べるという文型だという事を理解してもらわなければなりません。
http://e2ko0902.blog.fc2.com/blog-entry-20.html

 ~は~です [連体修飾+名詞]

「みんなの日本語 I」22課。「これはAさんが作ったケーキです」「あそこにいる人 は Bさん です」「昨日習った言葉 を 忘れました」「買い物に行く時間 がありません」「どんなアパートがいいですか」など。

  • 連体修飾の語順、文型がズムーズにできるようになることが主眼です。先生は文型に沿って「~は何をしている会社ですか」と質問します。答えは生徒さんに考えてもらいますが、「売っている」「作っている」くらいで良いと思います。
  • 文型: 「~ている人は~さんです/~さんは ~ている人です。」普通形、連体修飾の語順が、考えないでスムーズに出てくるかが最大のポイントです。先生は、矢継ぎ早に「~さんは どの人ですか。」を質問して、答えさせます。スピード感が大切です。
    http://nikyolog.blog.fc2.com/blog-category-6.html

 「~(する)と」「~(する)とき」

「みんなの日本語 I」23課の「~と」「~とき」の導入。 「(図書館で本を借りる)とき、カードが要ります。」「(このボタンを押す)と、お釣りがでます。」

後件に縛りがある文型は初めてなので、学生に自由な発言を許すと、非文が多くなる。後件に何が使えるのか板書しておくと学生も緊張せず、発言も活発になる
http://jn1et.com/kyouan23/

 「~たら/もし~たら~」仮定条件・確定条件

「みんなの日本語 I」25課。「雨が降ったら、出かけません」「雨が降っても、出かけます。」などの仮定条件・確定条件や、「もう一度若くなったら、頑張って勉強して、いい仕事をしたいです」のような「反事実的条件」など。

 受身形

「みんなの日本語」37課。文型1:「私は[人]にV[受身形](有情の受身)」、文型2:「私は[人]にNをV[受身形] (迷惑の受身)、文型3:「 [物/こと]は[時間/場所]にV[受身形] (非情の受身)」、文型4:「Nは[人]によってV[受身形]、文型5:「[物/こと]はV[受身形]ています」
シチュエーションの想定は初級の外国人を対象学生とした「受身の第一日目」など。

 ~に/を~させる(使役動詞)

「みんなの日本語」48課。お題は、『「だれだれ に~させる」と「だれだれ を~させる」の違いを説明してください』というもの。青年海外協力隊の技術面接にて。

 任意(自由選択)

模擬授業の課題について、採用側から特に指定がなく、応募者が自由に選んで制限時間内で何でも好きなことをやってよい、というパターンもあります。

【例1】:初級の文法を1つ使って日本語で授業をしてください。文法は何でも可です。院長相手に1対1。持ち時間は1時間。(韓国の日本語学院にて出題)

【例2】:日本語を勉強したことない人たちに対して、簡潔に2,3のことに焦点をあててするように。英語による間接法にて。持ち時間は10分。(北米の語学学校にて出題)

【例3】:「みんなの日本語 I」第14課以降から文型を1つ選び、その導入・ドリル等を学生役2~3名を相手に15分程度内におこなってください。(東京都内の日本語学校/法務省告示校にて出題)

 まとめ

日本国内の日本語学校は、「みんなの日本語」等テキストが一律であることが多く、ピンポイントで模擬授業の課題を指定してくる学校が多いのに対し、海外は比較的自由な場合が多いようです。また、英語圏(英語母語)の学習者(生徒)が多い学校は、間接法での模擬授業が求められることがあります。

 1.基礎的な課題や意図不明な無理難題が出された場合

基礎的な課題が出題された場合・・・例えば「みんなの日本語」の前半のほうが出題された場合は、模擬授業成否そのものよりも、受験者の基礎的な知識や、特徴、性格そして伸びしろなどを見てみたいという趣旨であることが多いです。「未経験者歓迎」としている求人などがこれに該当します。多少の難があっても、採用後にトレーニングすればよいので、現時点ではそれほど高い能力は求めていません。
オーソドックスではない、意図不明な課題が課せられた場合も同様で、あえて意味不明な課題や質問を投げかけて、その人のリアクションや性格などを見てみたいのが主であるため、その模擬授業自体の成否はあまり求められていない場合が多いです。

 2.難題を課す場合

模擬授業で難題を課す場合・・・例えば、「みんなの日本語」の後半に出てくるような課題や、経験がある人でも指導が難しいような課題が課せられた場合は、即戦力(となりうる実力者か)を求めている可能性が高いです。このような場合、採用後もいきなり中級以上のレベルのクラスをどんどん任される可能性がありますので、この場合は、しっかりと準備して模擬授業に臨む必要があります。

日本語教師の採用面接に臨み、模擬授業を失敗したのに、後日、「採用通知が届いた」という方の体験談が、ブログやSNSで多くみられることからも分かるように、模擬授業は「あくまで形だけ」という位置づけの採用機関も多いので、模擬授業に対して過度に心配する必要はありません。単に書類審査や面接では分からなかった、その人の為人(ひととなり;人間性や性格)などを模擬授業(その後のダメ出し含む)を通じて、無理難題や予想外の質問をしてチェックしてみる、という採用機関も多いのです。