日本語教師のすべてが国家資格(登録日本語教員)にならなければならない、というわけではありません。

【誤解】「日本語教師」が国家資格になる・・・わけではない

日本語教育のシェアと国家資格の影響

まず、資格制度に関して、マスコミ含め、大きな誤解が拡散されていますが、「日本語教師」が国家資格になるわけではありません

そうした誤解がはびこってしまったため、現在審議されている国家資格の名称は、当初の「公認日本語教師」から「登録日本語教員」へと変更されました。

すべての日本語教師が国家資格である必要はない

正確に表現すると、日本語教師の中で、「一部の機関で日本語を教えたい人」が国家資格を有することが必要となる、というだけのことです。

一部とは、法務省告示の日本語教育機関(法務省告示機関=在留資格「留学」が付与される留学生を受け入れることが可能な日本語教育機関・・・つまり「外国人への日本でのビザ発給が関係する」日本語教育機関・・・一般的によくイメージされるのは、専ら法務省告示校である「日本語学校」)のことです。

日本語教師をされている人の中で、その法務省告示機関で日本語を教える教員として働きたい場合は、登録(国家資格を取得)しなければならない(=登録日本語教員にならなければならない)というだけのことです。「教師」ではなく「教員」と表現されているのも、その点を識別するためです。

日本語教師(日本語教育)全体の中でのその割合は、約20%程度のシェアです。

また、国家資格(登録日本語教員)を取ったからといって、その資格でもって、全世界どこでも日本語教師ができる、というわけでもありません(全世界共通の資格ではありません)。

海外 vs 日本国内 の区分けも間違い

また、「日本国内の日本語教師は国家資格が必要になる」「海外の日本語教師は必要ない」という国内・海外の区分けの認識も間違いです。

  • 日本国内であっても、すべての日本語教師が登録日本語教員(国家資格)になる必要があるわけではなく(法務省告示機関以外の日本語教育機関や働き方もたくさんある)、
  • また逆に、海外であっても、(数は少ないですが)法務省告示機関が関係する場合は、登録日本語教員の資格が必要になる場合もあります(技能実習生送り出し機関など)。

但し、前述通り、全体として国家資格の影響を受けるのは、約20%超程度です。

そもそもこの制度の主旨は、日本にやってくる外国人労働者の管理目的で発足し、「外国人を管理するためのインバウンドな制度」の一環として・・・あくまで外国人へのビザ発給に関わる部分における限定的な制度ですので(だから管轄は法務省なのです)、その辺りを重々理解し、勘違いしないようにしないと、「日本語教師」の可能性を自ら狭めてしまうことになりかねません。

国家資格化で予想されること

  1. 成り手が少なくなる逆効果(悪化)
    • 主力層の排除
      これまで「検定に何となく受かったので」とか「同年代の人たちとおしゃべりしながら養成講座に通って何となく修了して」気軽に日本語教師になっていた主力層、特にミドル~ご年配の方々が「なること」が難しくなります。少子高齢化が今後ますます深刻化する日本では、この層の活用が重要なのですが、逆に排除されることになります。

    • 本腰を入れて資格制度に臨まなければならなくなるので、「老後の生きがいに」とか「ボランティア感覚で」「主婦がお手伝いがてら」といった成り手が排除されることになります。
    • まずは大金
      費用も何十万円も掛けなければならなくなります。これまでは極端な話、独学で日本語教育能力検定試験に合格すれば、最少費用1,2万円程度で告示校での資格要件を満たすことができていました。
      その道が閉ざされ、まずは「お金ありき」で、指定の養成講座や大学に、最低でも数十万円以上を払わなければならなくなります。
      完全に資格商法化してしまいました。指定機関への「天下り」や「癒着」がないことを祈るばかりです。少子化で衰退が必須な大学救済の意図もあったのではないか?とも推測されます。国家資格化に合わせて、「日本語教師」資格で稼ごうとする怪しいサイトも乱立する結果となりました。
  2. 待遇は変わらない
    • 一方で、教員の7割が非常勤という状態は変わりません。非常勤とは、「1コマあたりなんぼ」のアルバイトであり、フリーターです。結局、日本語教員は語学講師であり、主な勤め先の国内日本語学校はどこも中小零細企業です。特に学校下で働く教員は、差別化が難しく、むしろ制度下でがんじがらめの度合いが強まります。
    • 顧客層(日本語の需要)がアジア、特に中国と東南アジアがメインであることも変わりありません。とても脆弱な土台の上に成り立っている職です。また、全世界の人口構成や日本経済の推移から、日本語のシェアが落ちていくのは確実です。
      →関連記事:日本語教師の需要と将来性

日本と世界の人口推移

チャイナリスク
その他、国際情勢の潮目が変わり、かつてないほど不安定化してきています。特に日本国内の日本語教育は、中国人学生に大きく依存している中国依存ビジネスです。国内の日本語教育業界の、全体としては50~60%ほどが中国に依存しており、個別では、ほぼ100%が中国籍の学生で占められている日本語学校も少なくありません。
ちょっとしたチャイナリスク(中国の台湾進攻等)により、数年以内に、国内の日本語学校の半数近くは倒産ないし長期営業休止・大規模縮小する(=登録日本語教員の多くが職を失う)リスクも、とても現実的です。その影響は「反日暴動(2012年)」や「コロナ禍」より深刻で、十年、二十年単位で続くことが予想されます。
※「まさか侵攻することはないだろう」との大方の予想の下、ロシアのウクライナ侵攻は起きました。

資格のイメージ(例え)

国家資格後は、例えば、以下のような資格の職業に例えると、イメージしやすいかもしれません。

  • 構造・・・小中高校教員
    • 制度の全体的な構造のイメージとしては、小中高校の教員と同じような感じをイメージすると分かりやすいでしょう。例えば、日本の中学・高校などで「英語教員として」英語を教える場合は、学校教員免許(外国語/英語)を持っていなければなりませんが、それ以外の場所で英語を教える場合は、必ずしも学校教員免許は必要ない、むしろ(英会話スクールなど)日本の学校教員免許を持っていない英語教師のほうが多い、のと同じようなことです。
    • 但し、登録日本語教員は、国家公務員でもなければ地方公務員でもありません。給料が税金から出るわけではありません。
    • また、小中高校教員免許を持っていれば、そのまま登録日本語教員になれる、というわけではありません。小中高教員と「仕組み」が似ているだけで、制度や管轄は異なり、「別物」です。
      →詳細:小中高学校教員はそのまま登録日本語教員(公認日本語教師)になれるか
  • イメージとして近い国家資格は・・・
    • 当初「公認日本語教師」の名称が拡散したので、公認会計士などと誤認される方もいらっしゃるようですが、一番近い国家資格としては、保育士介護福祉士のようなものになると考えられます。
      登録日本語教員は、語学講師であること、アジアの貧困層が主な顧客であり、外国人就労・移民問題等々ブラックな部分にも深く関わってくることから、特に介護福祉士がイメージとしては一番、近いかもしれません。
      入管や不法滞在・不法就労等の外国人問題に、ビザを発給する日本語教育機関は密接に関係するため、その引き締めの一環として、「法務省」傘下として日本語学校があり、「登録日本語教員」制度があるのです。
    • 保育士や、介護系のホームヘルパー等が介護福祉士など国家資格になったから、成り手が増えて人手不足が解消したのか?というと、全くそのようにはならなかったのと同じように、登録日本語教員についても、成ることは難しくなっただけで、今後の待遇改善や人手不足は解消しないものと思われます。

審議中の国家資格(登録日本語教員)について

現在協議されている「国家資格(公認日本語教師)」改め「登録日本語教員」制度について、その協議内容の変遷を時系列に、Q&Aとともに以下にまとめました。

登録日本語教員になるための3つの方法

下記の「公認日本語教師(国家資格)」は、2022年5月以降、「登録日本語教員」と名称変更して審議されていますが、基本的には、これまで審議されてきた「公認日本語教師」制度と大きな変更はありません。

また、この制度は、今後も紆余曲折を経る可能性が高いので、日々変わる不確定要素について、今「どうなる?」「どうしよう?」と右往左往したり、議論したところで、あまり意味がありません。

いずれにしても、これらの制度は、インバウンド(日本国内)の外国人労働者を管理する枠組みの一環として、基本的には法務省告示機関(いわゆる日本の日本語学校など)で働く日本語教師を想定した制度であり、それ以外のすべての「日本語教師」を取り仕切る制度ではありません。

※以下は、「公認日本語教師」として審議されていた時代(2022年5月以前)の記述となります。

先にまとめておくと、この国家資格は「名称独占資格」なので、

 

  • 「登録日本語教員(旧名:公認日本語教師)」の資格を持っていなくても「私は日本語教師です」と名乗り、「日本語教師」として働く(日本語を教える)ことはできる
  • 「登録日本語教員(旧名:公認日本語教師)」の資格を持つ者は、「登録日本語教員」であることが求められる場所(法務省告示機関など)で「登録日本語教員」と名乗り働くことができる

ということになるようです。
→関連記事:日本語教師すべてが公認(国家資格)必須か【名称独占資格】

「国家資格制度」施行までのスケジュール(予定)

2021年1月25日にオンラインで開かれた(文化庁)第2回「日本語教師の資格に関する調査研究協力者会議」では、以下のことが議論されました。

  • 2021年5月までに「公認日本語教師と日本語教育機関の類型化」に関する法案の概要をまとめ
  • 2022年の通常国会で法案を成立
  • 2年間の準備期間(猶予期間)を経て
  • 2024年以降に「公認日本語教師制度」を施行(実施)予定

尚、「国家資格(公認日本語教師)」制度の内容そのものは、今現在も協議中であり、今後も変動する可能性がありますので、現在の仮の「案」を鵜呑みにして資格取得に奔走するのは、リスクがあります。

国家資格案の変遷

2019年11月バージョン

2019年(令和1年)11月8日の文化庁の第72回国語分科会では、以下のような「日本語教師の資格の仕組みのイメージ(案)議論のためのたたき台」が提示されました。

「日本語教師の資格の仕組みのイメージ(案)議論のためのたたき台」-文化庁
http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kokugo/nihongo_kyoiku_wg/04/pdf/r1421325_03.pdf

国家資格のイメージ

上図をご覧の通り(一部、文化庁の図に赤字と矢印で解説をこちらで加えています)、基本的な部分はこれまでと同じで、既存の「大学での専攻」「420時間講座修了」などがベースになっており、それらの資格保有者は、今後の制度化では「一部免除」されるなど、資格の優遇措置が取られることになっています。

特徴(変更点)

  • 判定試験を設置(日本語教育能力検定試験が少し形を変えてこれに充当される?可能性。但し、大学での専攻者や420時間修了者は一部免除措置が取られる可能性。)
  • 教育実習(追加講習)を設ける
  • 全員、学士(四大卒)以上じゃないとダメ。これまでは日本語教育能力検定試験さえ合格していれば学歴は不問だったが、この案では四大卒未満は道が閉ざされる。
  • 資格に有効期限を設ける(10年更新制)
  • 注目点:「多様な背景を有する、日本語教師を目指す者」枠の登場で、多様性を確保。
ちなみに朝日新聞が『「公認日本語教師(仮)」資格取得の流れ』(www.asahi.com/articles/ASM9N00QRM9MUCVL027.html)にて次のURLにある図
https://www.asahi.com/articles/photo/AS20190920004319.html
を掲載していますが、その図の中で「教育実習(45コマ以上)」としてあたかも「授業数が45コマ以上ある」と読み取れるような掲載をしているのは正しくなく、これは、文化庁が「1コマ(45分程度)以上」と書いてあったものを読み間違えたのかと思われます。

2020年10月 暗礁に?

2020年(令和2年)10月21日に第13回日本語教育推進議員連盟の総会における議論の結果、「文化庁が公認日本語教師の資格創設に後ろ向きの見解」「公認日本語教師、国家資格化が暗礁に?(なくなる?)」との情報が飛び交いました。
要は、国家資格(公認日本語教師制度)化することで、ハードルが上がるばかりで、成り手がいなくなるのでは?現状の制度(新基準)で十分なのでは?との危惧が示されました。

実はすでに公認日本語教師制である

この危惧は最もなもので、実はすでに公認日本語教師制は、2017年から始まっています。「公認」とは、何らかの団体(国家、団体など)が「公(おおやけ)に認めること」を指します。こちらの日本語教師基準と規定・日本語教員資格ガイドラインにてかねてからお伝えしているように、2017年施行の「法務省 新基準」にて、法務省・文化庁によって公認制となっています。検定合格者も検定実施協会から「公認」されています。

つまり、仰々しく国家資格(公認日本語教師制度)と言われていますが、実態は現状が微調整されるだけであり、真新しいものはほとんどありません。日本語教師を取り巻く環境はそれほど変わることはないので、制度変更に伴う労力対効果には疑問が残ります。

2021年3月バージョン

2021年(令和3年)3月23日の文化庁「日本語教師の資格に関する調査研究協力者会議(第4回)」では、以下のような「公認日本語教師の資格のイメージ(案)」が示されました。

「日本語教師の資格の仕組みのイメージ(案)議論のためのたたき台」-文化庁
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kondankaito/nihongo_kyoin/pdf/92895901_01.pdf

日本語教師の資格制度令和3年版

公認日本語教師になるための3つの道(上の図のまとめ)

  1. 「大学で日本語教育を専攻」→「日本語教育能力を判定する試験(筆記試験)」②に合格→「公認日本語教師登録」
  2. 「文化庁届け出受理の日本語教師養成420時間講座」修了→「日本語教育能力を判定する試験(筆記試験)」②に合格→「公認日本語教師登録」※学歴は不問
  3. 「日本語教育能力を判定する試験(筆記試験)」①と②に合格→「所定の教育実習」修了→「公認日本語教師登録」※学歴は不問

公認日本語教師になる3つの方法

特徴(変更点)

  • 「全員、学士(四大卒)以上でなければならない」を廃止=学歴撤廃。「文化庁届け出受理の420時間養成講座」修了者は必ずしも四大卒以上である必要はない。また、「日本語教育能力を判定する試験(筆記試験)」合格者も合格後、「所定の教育実習」を受ければ四大卒以上である必要はない。つまり、中卒・高卒・専門学校卒でも公認日本語教師になれるということ。
  • 「日本語教育能力を判定する試験(筆記試験)」というのは、おそらく現行の日本語教育能力検定試験が改定されたもの。
  • 「大学での日本語教育専攻者」または「文化庁届け出受理の420時間養成講座」修了者は、「日本語教育能力を判定する試験(筆記試験)」の一部(①基礎項目)と「所定の教育実習」は免除される。
  • 「国籍・母語を資格取得要件としない」ことで外国人日本語教師の増加・競合が促進される。
  • 旧案にあった公認日本語教師登録後の「更新制度」を廃止。
  • 旧案にあった「現行の法務省告示基準の教員要件を満たす者(経過措置)」が消失。
  • 旧案にあった「多様な背景を有する,日本語教師を目指す者」が消失。
  • 「公認日本語教師」は「名称独占資格」である。

解説

「2019年11月バージョン」に比べ「2021年3月バージョン」は、「学士(四大卒)以上」という縛りが撤廃され、門戸が広がりました(というより現状とあまり変わらないということになります)。これは「2019年11月バージョン」だと、日本語教師の成り手が激減するだろうとの危惧、そして「420時間講座」に四大卒以上が必須だと、「420時間講座」の受講者が減り、講座運営会社の商売上がったりだ・・・とのクレームの嵐が吹き荒れたためと思われます(→実際、文化庁届け出受理の日本語教師養成講座は、2019年12月を最後に増えていないどころか、すでに運営状況が謎のところもあります)。

その一方で、検定運営団体もしっかりと利権が確保できるように、全員「日本語教育能力を判定する試験(筆記試験)」(現在の日本語教育能力検定試験)の全部または一部を受けなければならない(お金を払わなければならない)システムが構築されています。

また、旧案にあった、既資格取得者に対する「経過措置」や「多様な背景を持つ者」に対する文言が新案では消失していることが気になります(単純な記載漏れであればよいですが)。
いずれにしても、内向的・排他的で狭苦しい改悪な制度になりそうな予感です。

国家資格化に関するQ&A

Q.今の資格が無意味にならないか心配なのですが

Q.日本語教師になろうと420時間の日本語教師養成講座を受講するか、日本語教育能力検定試験を受験しようか、迷っているのですが、最近、日本語教師が国家資格になり資格がいろいろ変わると聞いて、資格取得を躊躇しています。講座修了や検定合格が無意味になるのであれば、取得してもまるで意味がないので、どうしようか迷っています。

A. 資格取得後、ブランクが生じないのであれば、特に躊躇する理由はない(心配はご無用)かと存じます。

既存資格が反故になることはない

と言いますのも、「日本語教師が国家資格になる」といっても仕組み自体は今までと大きくは変わらないからです。

また、国家資格制度が施行されても、施行以前にとった資格は、そのまま有効になる(経過措置/救済措置が取られる)ことが多いためです。

その理由としては、

  1. 過去の資格が無効になったら、いきなり日本語教師数がゼロになり制度が崩壊する。
  2. 前例(2017年の「新基準」施行)でも、過去の資格は有効であった。

ためです。既存資格が反故になることはありません。

また、3つの利権(大学・養成講座運営会社・検定運営者)がガッチリからまっているので、今回の国家資格がどのように制度化されるにしろ、これまでの資格(3つの利権)がベースとなっている以上、既存の日本語教師には、今回もなんらかの救済措置(経過措置)が取られます。

資格取得後、ブランクが生じないのであれば、むしろ420時間講座修了も、検定合格も、迷わずどちらも積極的に取得しておいたほうがよいでしょう。

一挙手一投足への「から騒ぎ」は無意味

但し、現在協議中の国家資格制度の細かい点について、一挙手一投足「から騒ぎ」して右往左往することはまったく意味がないどころか、害でしかありませんのでやめたほうがよいです。

実際、上述の「国家資格案の変遷」具合の通り、初期の案での「四大卒が必須」という文言を見て、慌てて大金をはたいて大学の課程に入学した人がいたかもしれませんが、その後の「案」では、「四大卒が必須」の条件が削除されています。

制度施行までまだまだ二転三転する可能性があります。

今まで日本語教師をやっていて、日本語教師以外転職できない人ならまだしも、今からゼロから日本語教師を目指す人は、制度が確定するまで様子見をしたほうがよいかもしれません。その辺り、こちら今は日本語教師は目指さないほうがよい理由にて詳しく述べてありますのでご参照ください。

Q.国家資格化で日本語教師の待遇は改善するか

Q. 国家資格(公認日本語教師)になることで、日本語教師の待遇は改善しますでしょうか?

A.国家資格化は、あくまで「教員になるまで(資格取得まで)」の話であって、国家資格になったからといって、日本語教師の職場環境等待遇が改善するか?というとそれはまた別の話になります。

制度が変わっても需要の不安定さや待遇の悪さは続く

なぜなら日本語教師(日本語の需要)は、結局のところ、

  • 日本語は世界的にはマイナーな言語
  • アジアベースであること(アジアでしか需要がない)
  • 主たる勤務先(日本語学校等)はどこも「中小零細企業」である
  • 一応「専門職」ではあるものの、差別化が難しい
  • 日本の経済規模縮小・人口減・他国の隆盛
  • 語学講師であり、「非常勤」がメイン。時間を切り売りする労働モデル(自分の労働価値は他人による査定依存)である

に変わりがないからです。

日本語が世界的に大きな需要があればよいのですが、需要があるのは、

  • 日本の少子高齢化による社会変化のギャップが埋まるまでの(人手不足が生じている)間
  • アジアの新興国や発展途上国が、豊かになるまでの間

がピークと思われるからです。

日本の少子高齢化に社会が適用するようになり(または日本の経済規模の縮小化が落ち着き)、人手不足が解消してくると、それほど外国人労働者はいらなくなってきます。
(例:定年廃止による高齢者雇用や女性人材活用の促進、A.I.化によるマンパワー削減化成功等)

また、アジア各国が豊かになってくると、わざわざ日本まで出稼ぎにやってくる必要もなくなるか、日本よりももっと稼げる国が登場すればそちらに労働者は流れるようになりますので、日本における日本語教育の需要というのは、今ほど無くなってくることが考えられます。

そうでなくても、ただでさえ、日本は地震などの自然災害大国な上に、近年、地球温暖化でスーパー台風など新たな大規模災害が起きやすくなっているところ、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)などの災難も降り注ぎ、安全神話が崩壊しつつある日本に、リスクに敏感な外国人がどれだけ安定的に来続けてくれるかは楽観視できないでしょう。

全世界で働けるわけでもない

また、この国家資格を取ったからといって、全世界で日本語教師として働けるわけではありません。例えば、この国家資格を取ったからといって、アメリカ他欧米圏でビザが降りるわけではありません。

国家資格の効果は限定的であり、あくまで日本国内における外国人労働者を管理するためのシステムの一環としての、法務省告示の日本語教育機関(専ら日本国内の日本語学校)で働くための規制(資格)という、インバウンド・内向きで排他的な資格・・・というニュアンスが強いです。

非常勤メインも変わらない

国家資格と言えば、聞こえは良いかもしれませんが、結局、日本語教師は「コマあたりナンボ」の語学講師に過ぎません。

上述のように海外依存ほぼ100%の業界につき、生徒数も不安定なので、1,4,7,10月各期の入学者に応じて、授業のコマ数及び教員数を調整しなければなりません。

日本語教師のシェア

そのため、日本語教師は7-8割が非常勤で占められていると言われる現状は、今後も変わらないでしょう。日本語教師を本職(専業)としてやっていける人は、今後も限られるどころか、「なること」が難しくなり、気軽さは失われ、さらに深刻な人手不足に陥る可能性があります。

「国家資格」(公認)というネームバリューに魅かれて、一時的に成り手は増えるかもしれませんが、結局、離職者も多いので、さらに日本語教師の高齢化も進むことでしょう。実際、現時点ですでに、日本語教育能力検定試験の受験者の3人に1人以上は50歳以上となっています。

新型コロナウィルス感染症の蔓延で、常勤(専任)講師を多く抱え込むことでの経営のリスクを感じた日本語学校経営者も多くいることでしょう。アフターコロナになっても、今後はますます「非常勤」主体になることは間違いありません。

質の向上も疑問

この制度改革の背景の1つに、「日本語教師の質」が問題視されていた点もありますが、その「質」が問われたこれまでの日本語教師は、この制度下ではスライド式にそのまま日本語教師を続けることができます。

また、変更された制度自体も、基本的にはこれまでとあまり大差もなく、形(制度)だけ整え直した、という所感が否めません。

「なる前」の教育実習部分だけが独り歩きし(教育実習さえ受けていればOK、と現行の文化庁届出受理制度でもすでに形骸化してしまっています)、「なった後」の教員の質の向上、管理・チェック機能がおざなりです。

資格商法の激化、何をするにもお金が必要に

この日本語教師の「資格化」の話が出るやいなや、完全に資格商法化してしまい、資格ビジネスの商機とみて新規参入してくる業者が増加。すでに日本語教育関連の「情報を発信する」という「日本語教師〇〇〇」といった名目の怪しいサイトが乱立。ライターを雇って適当な(信憑性のない/間違った)情報を発信したり、特定の講座や大学に強引に誘導しようとするサイトや会社が雨後の筍のごとく発生。

文化庁届け出受理の日本語教師養成講座の中にも、よくわからない(怪しい)講座があり、とりあえず講座は作ったけれど・・・運営状況さえ不明(受講生が集まらず、すでに休止状態?)なものも出てきています。

大学の利権、養成講座の利権、検定試験の利権もからみあい、全員、検定試験(に相当するもの)にお金を払って受験しなければなりませんし、養成講座も高額なものが多く、日本語教師は、何をするにもまずはお金がかかるような方向に向かっています。

Q.国家公務員資格化が検討されていますが・・・

Q.現在、日本語教師の国家公務員資格化が検討されていますが、可決されたとしたら、どのような変化がありますか?

A.まず、「国家公務員資格化」(公務員)ではありません。税金が源泉ではない(税金から日本語教師の給料が支払われるわけではない)ので、「公務員」ではありません。あくまで「登録日本語教員」化(ないし「国家資格」化です。

変化については前述の通りです。すでに2017年より法務省告示校や文化庁届出受理の日本語教師養成講座などは始まっており、その現行制度ベースなので、それほど大きな変化があるわけではありません。

Q.全員が国家資格を取らないといけないのか?

Q. これから日本語教師をやる場合、全員、公認日本語教師にならなければならない(国家資格?を取らなければいけない)のでしょうか?

A. いいえ。必ずしもすべての「日本語教師」が公認日本語教師(国家資格)の制度で取り決められた資格を取らなければならない、というわけではありません。

これらの制度は、元々、法務省の外国人管理という観点から発している制度ですので、主に「法務省告示の日本語教育機関」で働く場合は、その制度下で定められる条件を満たさなければなりませんが、それ以外で日本語教師をやる場合は、必ずしも国家資格でなければならない、というわけではありません。

もちろん、いわゆる国家資格の制度は、多方面で「参考」として扱われることはあるかと存じますが、必ずしもすべてを縛るものではありません。

例えば、前述したように、日本国内外で英語を教えている人が、すべて日本の学校の英語の教員免許を持っているのか?と言えば、そうではない(むしろ持っていない人のほうが数は多い)のと同じことです。

特に国外のことは「治外法権」ですので、基本的にはその国のことは、その国のルールが適用されます。また、国・地域・学校によっても、教え方やニーズは異なり、日本語教育の現場は多様性に富んでいますので、「国家資格」制度下での一元的な教え方や価値観の押し付けにも限界はあります。

世界を広く俯瞰するに、おそらくですが「国家資格」制度の影響があるのは、日本語教育全体の20-30%程度ではないでしょうか。

まとめ

国家資格化でどう変わるか?を簡単にまとめると、

  1. 基本的な資格の骨組みはこれまでと変わらない(既存日本語教師には救済措置もある)
  2. 国家資格下の教員になるためのプロセスが少し追加された
  3. 資格商法のえじきに
  4. 長期的にみて成り手は減り(離職者の多さも相変わらず)人手不足は続く→国籍撤廃で外国人日本語教師に期待
  5. 新制度は名称独占の国家資格であって、業務独占の国家資格ではない

という感じになるようです。

今後も人手不足(離職率が高い)は続く

日本語教師(特に日本国内において)は「アジアの人々のお世話係」といっても過言ではないほど、根本的にアジア人ベースであり、どちらかというと貧困ビジネスに近く、介護業界と似た部分もあります。

最近の制度改正は法務省の入管法の一環として、つまり外国人を管理するためのシステム作りの一環として行われているため、むしろ(日本人が働きたがらない単純労働職や3K職への)労働力輩出のための日本語教育という様相が強まってしまったので、今後ますます(特に日本国内の)日本語教師は、殺伐としたものになってくる可能性が強いです。

外国人日本語教師に期待

また、近年始まった外国人日本語教師の育成との競合や、上記の国家資格の国籍撤廃の方向性から、外国人日本語教師に期待していることが見て取れます。今後は、「外国人の、外国人による、外国人のための日本語教育」が促進される方向のようで、日本人日本語教師の人手不足にはもはや諦めムードさえ漂っています。

日本語教師に「なるのは難しくなったのに、なった後の環境があまり変わっていない」では資格取得の「費用対効果」は考えものの部分があります。

全員が国家資格でなければならないわけではない

この国家資格は「名称独占の国家資格」であって、「業務独占の国家資格」ではありません。

つまり、この資格を取らなくても「日本語教師」を名乗り、日本語教育を行うことはできます。但し、「登録日本語教員」を名乗って働くことはできません。

具体的には、国家資格の制度は、専ら日本国内事情(日本国内の日本語学校及び技能実習生が関わるアジアの一部における法務省告示の日本語教育機関)に限るお話であり、それ以外で日本語教師をやる場合は、「国家資格」とはまた別の話になりますので、「日本語教師になりたい/やっていきたい」場合は、まず「どこで、どのように働きたいのか」を明確に特定して、その自分の用途に応じた資格や知識をピンポイントで取得していくことが大切です。