日本語教師の不安

社会情勢の変化が激しい現在、今は日本語教師を目指すのはやめたほうがいい理由が何点かあります。

尚、当ページは、

  • これからゼロから日本語教師の資格を取ろうとしている
  • 「法務省告示の日本語教育機関」で働こうと考えている

の2点を満たす方を念頭に書いてあります。

すでに日本語教師をされている方や「法務省告示の日本語教育機関」以外で働こうと考えている方には該当しません。

当ページは2020年~2023年にかけての状況を踏まえて書かれた過去の記事となります。ご了承ください。

理由1.制度の変更(二転三転)

こちら登録日本語教員(日本語教師の国家資格?)になるにはにて説明してありますように、もうすぐ「法務省告示の日本語教育機関」における日本語教師の資格制度が変わります。

しかし、実際はどう運用されるのか、具体的な細かい部分が不明なままです。

おおむね今の告示基準の資格をベースに、指定の教育実習や筆記試験を受ける、という形になるのですが、この制度の全容が具体的に明らかになり、さらに「制度が安定」するまでは、新たに日本語教師を目指すのは控えて、見守っていたほうがよいかもしれません。

例えば以下のような例が発生しています。

制度施行前に資格を取っても無駄になるかも?

  1. 失敗例1:学歴撤廃
    2019年の国家資格(公認日本語教師制)案では、日本語教師はすべて「四大卒以上」でなければならない、となっていましたが、2021年3月の案以降、2023年の文化庁の発表では、学歴は撤廃(学士/四大卒以上という文言が消滅)されています。
    2019年の案で慌てて大学に編入学した人などは、多額の授業料や時間などを損したことになります。
  2. 失敗例2:検定だけでは資格にならない
    「国家資格制度が始まったら、日本語教師になるのが困難になる」とそそのかされて、慌てて日本語教師養成講座に通ったり、検定を受けたりした人もいます。しかも検定は大幅に受験料が値上げされました。
    しかし、発表された制度の枠組みを見てみると、日本語教育能力検定試験合格のみでは登録日本語教員になれない(経過措置の対象外である)ことが判明しました。無資格者、未経験者が慌てて検定を受けて、損したことになります。
  3. 失敗例3:意外と安くなれる経路も残されている
    さらに2022年5月以降は、「公認日本語教師」という名称ではなく、「登録日本語教員」という名称および制度への変更となりました。これにより、認定基準を満たせば、自治体が開設しているものや大学の別科その他、設置者や機関の施設種別は問わずに、つまり、案外いろいろな経路で「登録日本語教員」としての認定が受けられることになる気配を見せています。
    また、国家資格の制度下では、「試験ルート」として、「養成講座を受講しなくても登録日本語教員になれる」という独学系の格安なルートも用意されていることが分かりました。
    予断を下して早めに動いてしまった人は、旧制度適用となり、逆に経過措置で追加でいろいろ動かなくてはいけない部分が発生することになり、いっそ登録日本語教員制度が始まってからゼロからスタートしたほうが良かった、という方もいらっしゃるでしょう。

このように今後も制度は二転三転する可能性が高いので、制度施行前に一挙手一投足に反応して、今動いてしまうことは得策ではないと言えます。

もちろん、ネットの質問サイトに質問し、その回答などを鵜呑みにする「空騒ぎ」は問題外です。

制度施行後のほうが得策なケース

文化庁届け出受理の養成講座を運営する会社は「商売」ですので、「制度が変わる前に資格を取っておかないと!!」というスタンスで猛烈に販促をしています。

特に日本語学校を併設している会社は、日本語学校のほうの来日外国人生徒がコロナ禍で激減した影響で、国内の日本人が養成講座に払ってくれるお金がないと死活問題ですので、とにかく「今、講座に申し込むように!」と切実なはずです。

しかし、資格をとっても、法務省告示の日本語教育機関で、一定数の勤務実績が無いと、資格は無効になる可能性もあります。

なぜなら、例えば、もし制度改革前の資格がすべて有効であるならば、「10年前に検定合格した」「5年前に養成講座を修了した」けれど、日本語教師をまったくやっていない人でも、そのまま「有資格者」になってしまうからです。それは今回の国家資格化の趣旨(日本語教師の質の向上)に明らかに反しています

ですので、そこを見極めずに、言われるがまま、慌てて今、資格を取ってしまうと、ブランクが生じた場合は、結局資格として認められず、無駄な資格に多額なお金と時間を費やしたり、さらに別の資格を取らなければ意味がなくなったりする可能性があるからです。

もしかしたら、その資格取得後の勤務条件も、例え法務省告示校であっても、非常勤の経験は認められず、常勤で〇年以上の勤務経験者のみ、過去の資格はそのまま有効なものと認める、という厳しい条件が課せられるかもしれません。

実際、「登録日本語教員の資格取得に係る経過措置」(文化庁)によると、

  • 施行前:養成講座+四大卒+応用試験(経過措置)
  • 施行後:養成講座+応用試験

となり、前述のように四大卒に満たない人は、学歴が撤廃された登録日本語教員制度「施行後」に目指したほうが得策かと考えられます。
→詳細:登録日本語教員(日本語教師の国家資格?)になるには

以上のように、結局、制度がどうなるかわからない施行前の段階において、あれやこれや動きすぎるのはリスクがあります。

理由2.新型コロナウィルスの影響

2021年12月には、ネット上では以下のような投稿が見られました。

私は今年の秋に日本語教師としての資格を取り、就職が決まりましたが、コロナの影響で学生が入国できないので、授業準備をしたりして働いていました。ある日、学長から違う会社にはなるけど留学生達を管理する管理職を募集していて、どうかな?と声をかけて頂きました。教師として働きたかったですが、興味はあったので管理職の正社員として新しい会社で働くことになりました。

また、2022年1月の投稿には以下のようなものもあります。

社会保険外れてください…って非常勤講師に言うほど経営難だとは知らなかったな…うちの学校…

日本語教師として日本語学校に就職したとしても、現状、なにかと厳しいようです。

校舎を近隣に複数展開していた東京の日本語学校も、各校舎を閉鎖し、本部(本校)のみの縮小営業にしてなんとか凌いでいるところも珍しくありません。

十分な教育実習ができない可能性

ご存知のように、新型コロナウィルス感染症の影響で、来日外国人が減っています。日本語教師になるための2つの方法「大学で専攻」「420時間講座修了」は、教育実習が肝になっていますが、これだけ外国人が減ってくると、実践的な教育実習が十分にできない可能性があります。

十分に実践的な教育実習ができないとなると、「教育実習が売り」の高額な420時間養成講座受講料に見合ったものがない、ということになります。

平常時よりも十分な教育実習を受けられないまま、日本語教師デビューしてしまうと、さらにコロナ禍で新人研修体制が十分ではない緊急事態下の環境で働くことになり、出だしからつまずく確率が高くなっています。

需要の低下(求人数の激減)

コロナ禍で、日本語教師が働く日本語学校等、日本語教育関連機関は経営の危機に直面しています。実際、先日も外国人実習生の介護仲介団体が破綻したニュースがありました。
また、生徒の減少で日本語教師を解雇した機関も多くあり(つまりリストラされた・失職した日本語教師が多数おり)、当面、日本語教師の雇用は、通常よりもさらに不安定な状態が向こう数年は続くものと思われます。

全体的な求人数は実質、半減です。

日本語学校も半年くらいは持つとは思われますが、それ以降は倒産する所がバタバタと出てくるかもしれません。

求人はあるにはありますが、当初の応募締切日より前倒しして応募受付終了することが多いことから、少ない求人に応募者が殺到していることがうかがえます。

つまり、このような状況下では、新参者は弾かれてしまうか、就職できたとしても、コロナ禍で生徒数が少ない日本語学校なので、最少人数の少数精鋭で学校をまわしているため、ちゃんとした新人研修などは期待できない可能性が高いです。

ウィズコロナ下での年齢制限

各国で入国緩和なので、ワクチン接種証明や陰性証明さえ提出すれば、ふつうに海外生活が送れるようになってきたと、一見、見えるかもしれません。

しかし、海外(・・・といっても日本語教師はアジア、特に東南アジアくらいしか専ら働き先はありませんが)の求人をよく見ると、これまで「60歳くらいまで」としていた求人が、

50歳未満(コロナ禍のリスクマネジメントにより年齢制限あり)

と明記して求人を掲載しなおしている事例もあります。

これはワクチンを何度も接種していても、結局、ブレイクスルー感染して、場合によっては最悪の結果を招くこともあるというリスクを回避するための、応募資格(採用条件)における年齢制限です。

この求人では「50歳未満」としていますが、年齢が上がるほどそのリスクが増大するので、ウィズコロナ下では、これまでよりも一層、年齢が高くなるほど就職が難しくなっている、ということが分かります。

この求人のように、しっかりと年齢制限を明記してくれているのはむしろ親切なほうで、実際は暗黙の了解的に年齢制限を設けて門前払いしているところも多いのではないでしょうか。その場合は、求職者の応募損ということになります。

特に海外での日本語教師となると、わざわざコストをかけて就労ビザもサポートして採用したのに、すぐ辞めざるをえない状況になってしまうと、採用側もかなり痛手なので、背に腹は代えられない重要な部分です。

コロナ後も環境変化

また、アフター・コロナになっても、オンライン授業の増加など、日本語教師の働き方や需要が大きく変わる可能性があります。特にこの1,2年は変動が激しいので、どのように変わっていくか、しばらく様子見をしたほうがよいでしょう。

でも述べたように、外国人日本語教師の育成も始まっていますので、今後は日本人の日本語教師も、今ほど必要ではなくなってきます。国家資格制度案でも、国籍不問の部分が強調されています。

また、コロナ禍で、専任(常勤)の日本語教師を多く抱えることにリスクを感じた日本語学校経営者も多くいたことでしょう。元々、日本語教師業界は非常勤が7-8割を占めていましたが、今後はますます非常勤が主流となるとみられます。「非常勤」といえば聞こえがよいかもしれませんが、実質アルバイトであり、フリーターです。

では「常勤(専任)」なら天国なのか?というと決してそうではなく、所詮、もっぱらアジア人を対象としたマイナーな言語の語学講師なので給料は頭打ち、しかも、今後は国家資格の規則にあれやこれやがんじがらめとなり、求められるものだけは多くなって、リターンはさらに少なくなっていきます。

ブランクが生じると就職に不利

前述の通りの求人数激減で、すでに日本語教師になっている人数だけで、数字上の需要は満たしている状態です。また、今後大きく日本語教師としての働き方自体が変わっていく可能性があります。

日本語教師に求められる素養も変わってくる可能性があります(例えば、資格を持っていても、パソコンやオンラインのネットワーク、A.I.活用に強くなければ採用されない等)。現行の文化庁届け出受理の日本語教師養成講座のほとんどは旧態依然で、こうしたオンラインでの授業ができる日本語教師の養成にはあまり対応できていません。

そのため、今、新たに資格を取ったとしても、すぐに就職できるとは限らず、資格取得後、ブランクが生じると、就職に不利になります。

学んだことを忘れてしまうので、面接の模擬授業で失敗したり、就職したとしても「しんどい」ことになり、すぐ離職してしまうことにつながりかねません。

採用側も、資格取得からブランクがある未経験者はあまり採用したがりません(よほどの応募者不足のブラックな日本語学校などは除く)。

理由3.チャイナリスク

これはコロナ禍よりもさらに深刻なリスクですが、日本近郊では、台湾周辺で中国との戦争ないし紛争が起こる可能性が高まっています。

日本の日本語学校(法務省告示校)は、中国からの留学生にあまりに大きく依存しすぎています。日本国内の日本語教育業界の全体としては、50~60%ほどが中国からの学習者に依存しています。個別に見ると、日本語学校によってはほぼ100%が中国人留学生で占められている日本語学校も少なくありません。

ある意味、(特に日本国内の)日本語教師は「中国 依存ビジネス」といっても過言ではありません。

戦争ないし紛争が起きると、当然、中国は強行的に日本への渡航を禁止しますし、中国国内でも「日本語教育禁止」といった措置が取られることは安易に想像できます。

直接的ないし間接的に戦争が始まると、中国人学生に偏重著しい日本国内の日本語学校ですし、また中国以外の国の留学生も、リスク回避で紛争地域である日本留学を避ける人たちがたくさん出てくることが考えられます。

そしてその深刻な状況は、コロナ禍のように数年レベルではなく、十年単位レベルで続きますので、半数以上の日本国内の日本語学校は、事実上、経営不可能となることでしょう。

つまり、数年以内に、突然かつ長期的に、職を失ってしまう可能性があるのが、(特に日本国内の日本語学校の)日本語教師と言えるのかもしれません。

さらに長期的な視点で見ると

コロナ禍やチャイナリスクに関係なく、日本語教師の需要というのは、今がピークだと言われています。

現在は、日本政府が外国人に対してビザを緩和したため、訪日外国人が増えただけであって、日本そのものの人気が自然発生的に上がったわけではありません。

2000年~2020年の20年間がそうであったように、向こう10年~20年で、アジアの国々の隆盛に従って、相対的に「日本や日系企業で働くことの価値」はさらに失われていきます。

慢性的な「円安」に、日本円の力の無さが現れています。これでは他の国で働いたほうが稼ぎがいいので、日本にやってくる外国人労働者の数も質も、限定的なものになってしまいます。

それに伴って、日本語の需要、つまり日本語教師の需要も落ちていくと思われます。

例えば、日常生活においても、昔は家電大国だった日本ですが、すでに日本製の家電を探すのも難しくなってきています。日本のメーカーであっても、海外の工場で作られているため、日本における産業の空洞化は顕著です。将来も描けないのに、これでは日本人の人口が増えるわけがありません。日系企業も海外の企業に買収される事例も相次いでいます。

前述の「ビザの緩和」も、少子高齢化および「日本で売るものがなくなってきた」ので、「他に売れるものは?」ということで、「観光資源」と「労働市場」を「販売」するためです。少子高齢化で内需だけでは国が成立しづらくなってきており、さらに産業の空洞化で売るものがなくなったため、ビザを緩和して外国人のインバウンドに期待しようという施策ですが、裏を返せば、日本の危機的な状況が見えてきます。

そして不足するすべてを外国人で補おうというのも無理があります。彼らとて同じ人間ですので、いつまでも日本人が敬遠する3K職に甘んじてくれるわけではありません。

政府の号令による「賃上げ」も、裏を返せば人件費の高騰、人を雇うことでのリスク増大となります。

いずれにしてもこれからはA.I.の活用や経営の効率化が進み、「人が少なくてもまわる社会」へ徐々にシフトチェンジしていきますし、そうならなければやっていけません。つまり、人はそれほど必要なくなる、ということです。

これから日本語教師になったとしても、また、国家資格化されても、日本語教師は7割以上が非常勤であることは変わりませんし、そもそも主な勤務先の日本語学校は多くが「中小零細企業」です。→参考:日本語教師は常勤と非常勤どちらが多いですか?

むしろコロナを経験して、日本語教育機関の経営者は、改めて常勤(専任)の日本語教師を多く抱えることのリスクを感じたことでしょう。今後はますます非常勤多用での経営にシフトしていくはずです。

ネット上では、「日本語教師 やめたほうがいい」「日本語教師 危ない」「オワコン」といった検索推奨キーワードがあふれていますが、日本語教師をこれから検討されている方は、上記のような可能性もふまえて、いざとなったら他職にスムーズに移動できるようなバックドアも用意しておくことをお勧めします。

以上をふまえ、日本語教師になることは慎重に、検討には検討を重ねたほうがよいでしょう。

【関連記事】: