質問
Q. 日本語教師として働く形態には常勤や非常勤などがあるようですが、実際のところ、求人などでは常勤と非常勤のどちらが多いのでしょうか?
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回答
A. 圧倒的に日本語教師は非常勤が多いです。この業界の約7割(70%)が非常勤で占められています。
3人に2人が非常勤
この状態は今に始まったことではなく、日本経済がバブル期で日本という国が世界でも注目を浴び、日本語人気がピークだった1980年代からすでに日本語教師の7割近くが非常勤での勤務が大多数を占め、30年経った今もほとんどが非常勤講師である、という状態に変化はありません。
ご参考までに過去の文献を紐解いてみると、例えば昭和63年(1988年)11月1日現在の文化庁の国語課の統計によると、日本語教師の総数は6723人で、そのうち専任教員は2136人でした。つまり専任教員は約31.8%で、残りの70%近くが非常勤という勤務形態でした。つまり、日本語教師の3人に2人は非常勤ということになります。
この辺りの比率の傾向は、30年経った今も基本的には変わっておらず、むしろ日本語ブームが過ぎ、日本よりもアジア各国の隆盛のほうが目立つようになった厳しい日本経済の現在では、ますます非常勤講師の需要が増加しつつある傾向です。
また、常勤講師は、大学(短大・大学院含)勤務より、一般の民間の日本語学校のほうが圧倒的に多い傾向があります。同統計では、大学勤務の日本語教師の総数は546人。しかし、民間の学校に勤務している常勤(専任)日本語教師は1582人でした。
学校毎の専任教師数に換算するともっとわかりやすく、民間の日本語学校の専任教師数は、1校あたり平均4.6人だったのに対し、大学勤務の専任教員の数は、1校あたり2.07人(うち国立大学は1.66人以下)という数字が出ています。
つまり、あくまで数字上の話ですが、もしあなたが常勤(専任)の日本語教師になりたければ、大学勤務ではなく、絶対数が多い民間の日本語学校勤務の路線で就職活動したほうが、常勤(専任)になれる確率が高くなる、ということになります。
なぜ非常勤が重宝されるのか
なぜ日本語教師は非常勤の勤務形態が重宝されるのかというと、これは単純に需要と供給の一致、つまり自分の自由になる時間帯で働きたいという被雇用者側のニーズと、合理的・経済的な経営をしたいという雇用者(学校)側のニーズが合致したことによるものです。
需要(勤務先・日本語学習者)側としては、
- 人件費を安くしたい(人件費が安いほど学校運営が楽。そもそも就労斡旋が主目的で日本語は形だけだから、そこにコストは割きたくない場合もあり。)
- 日本語学習者は多種多様(社会人、主婦、学生等)なため、各ニーズにコマ的に対応する教師が必要
- 生徒数が毎回不安定なため、非常勤のほうが調整しやすい
といった要因が挙げられます。
供給(日本語教師として働きたい人)側としては、
- 新人教師がいきなり常勤として多くの授業を担当するのは能力的に事実上困難
- 拘束時間を短くし、自分の自由になる時間帯で働きたい
- 純粋に「日本語を教える」という部分だけに専念したい
といった理由があげられます。
特に4番目に関しては、日本語教師養成講座修了や日本語教育能力検定試験を合格したばかりの新米の教員が、一日4コマ、週20コマなどの授業を担当するのは、実質無理があります。かけだし新人は、どうしても1つの授業の準備だけでも4,5時間はかかってしまい、また授業が終わった後のフォローも数時間かかり、つまり1コマに対して6~8時間は拘束されてしまうのはザラだからです。よって、非常勤スタートはやむをえないものであり、むしろ新人のためにも最初は非常勤スタートが理想とされています。
また、日本語教師は完全に中途採用市場であり、転職組みが多数を占めています。ほとんどの人間が「やりがい」を求めて日本語教師に転職してきており、24時間しゃにむに働く、というよりかは、ある程度自分の時間を確保しながら「自分らしく」働きたい、という方が多数を占めています。
加えて、日本語教師の成り手は主婦が多いという背景も、非常勤が多いことの一因になっています。勤め先の事業規模等によっても異なりますが、主婦は年収106万円以上になると配偶者の扶養家族から離脱しなければならず、各種税金その他がかかるようになってしまうなどの事情があり、年収(つまり勤務時間)をある程度おさえなければならない事情があるためです。
その他、子育て中で、早朝、子どもや夫を送り出し、午前中から昼前後までだけなら勤務できる、という主婦が多いのも、日本語教師には非常勤が多い理由の1つとなっています。→関連:[ なぜ日本語教師は主婦に適した資格なのか ]
専任(クラス担任)の場合は、(学校にもよりますが)問題(犯罪)を犯した生徒の警察署への引き取りや事情聴取その他、日本語学校が抱えるブラックな部分に関わらざるを得ないことも多く、それを避けるために、純粋に「クラスで日本語を教える」という部分(いわゆる日本語教師として一番おいしい部分)だけに専念したいために、生涯非常勤というスタイルを選択する人もいます。
ここで今一度、常勤と非常勤の日本語教師のメリット・デメリットの最たる点をまとめてみましょう。
常勤のメリット
- 固定給で社会保障(健康保険、年金など)がある場合が多い(但し、勤務先による)
- 実績が後々の転職につながる(例:常勤として3年以上の経験者などの求人に応募できる)
常勤のデメリット
- 結局、常勤であっても1-2年契約更新で「契約社員」と大差ないことが多い(勤務先との契約にもよる)。
- 多忙、激務。授業だけでなく学校全体の経営面、カリキュラム構成、生徒募集、非常勤講師のケアなどで1日15時間拘束され、体を壊して辞めてしまう専任教師もいます。
学校にもよりますが、問題を起こした外国人生徒を警察署に引き取りに行ったりする、生徒が住むマンション・アパートと近隣住民とのトラブル仲裁・・・などの時間外雑務も多々あるようです。
非常勤のメリット
- 自分が受け持つ授業にのみ集中できやすい。
- 週2,3日とか、午前中のみ など時間的拘束が少なく比較的自由がある。
- そのため、初心者は授業準備に時間を割けるなど、徐々に慣れていける。
- いろいろな学校を掛け持つなどして、各学校の特色を味わえる。
- 配偶者の扶養家族のまま勤務できる、など。
非常勤のデメリット
- 薄給。日給・時給制。→参考:[ 日本語教師の給料 ]
- 社会保障(健康保険・年金)の適用はない。(但し、扶養家族者は不要)
- 常勤講師より、学校の運営に対しての裁量権は限られる、など。
- 長年積み重ねても経歴としての評価は常勤より低い場合がある。
海外ではどうか?
以上が日本国内のおよその状況ですが、では海外はどうかというと、基本的には海外も諸事情は同じです。
海外でも本当は、非常勤(パートタイム)で雇って人件費を抑えたい、というのが雇う側の本年です。
但し、海外の場合、日本にいる人たちに求人募集をかける場合は、フルタイム職でないとその国の就労ビザが取得できないというやむを得ない事情があるため、日本国内に届く求人のうち、特に需要が高く深刻な人手不足に陥っているアジア圏の求人おいては、自ずとフルタイム(常勤・専任)の募集が多くなります。
アジア圏は日本よりも物価(通貨価値)が低い上に、日本語というマイナーな言語では、なかなか高額な授業料を徴収できないので、人件費はなるべく安く抑えないと学校運営が厳しくなるのは、日本国内外、どこも共通事項です。
また、需要が低い欧米圏では、パートタイム的な仕事が単発的にしかなく、日本語教師ではビザが取れないため、日本に届く欧米圏の日本語教師の求人はとても少ないです。
常勤と非常勤のまとめ
以上のように、置かれている環境や価値観は人それぞれですので、一概には「常勤のほうがいい」とか、「いや、非常勤のほうがいい」とは言い難いものがあります。
また、一般的には、日本語教師の新人は、最初は非常勤でスタート、3年以上とか、時に6~7年、非常勤として経験を積めば、そのうち常勤になれるチャンスはめぐってくる、などといわれていますので、往々として、まずは非常勤になるしか選択の余地はない場合が多いのも事実です。
そして、常勤(専任)になったとしても、結局、年収は200万円~300万円程度になれば良いほうです。→[日本語教師の給料が低い理由]
2020年の新型コロナウィルス感染症で常勤(専任)日本語教師を多く雇うことのリスクを痛感した日本語学校経営者も多かったことでしょう。外国人依存の業界の脆弱性と日本語教師の不安定さがはっきりと露呈しました。アフター・コロナでは、登録日本語教員(国家資格)制が始まった後も、ますます非常勤主体に拍車がかかることには間違いありません。
何はともあれ、日本語教師の業界というのはこのような感じですので、始めから過剰な期待は禁物ですし、かといって絶望するのも早々であり、とにもかくにも、現実を淡々と認知して、ご自分の目的に合った進路をとっていくことが一番肝要なのではないでしょうか。
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